FIBAバスケットボールワールドカップ2023が近づいています!
ワールドカップを語るうえでは、世界最高峰のバスケリーグであるNBAの要素は外せないでしょう。
大会に出場する各国のリーダーはNBA選手であることが多く、大会期間中はFIBA公式も各国のNBA選手にフォーカスすることも少なくありません。
そのチームの強さを計るうえでは「NBA選手が何人いるか」が重要と言えそうです。
一方で、これはNBAに親しんだ人や、スラムダンク等の影響で「海外リーグ=NBA」という認識が一般化している日本的な発想とも言えますね。
ヨーロッパのユーロリーグやオーストラリアのNBLなど、NBA以外のリーグに詳しいファンからは、NBA選手はワールドカップにおいて大きな影響力を持たないといった見方も聞かれます。
こちらの記事の冒頭でもやや触れましたが、NBA選手の数がそのままチームの強さになるなら、アメリカが常に最強なはずですよね?
けれど、実際は必ずしもそうなっていないんです。
背景には、ワールドカップを主催する国際団体・FIBA(国際バスケットボール連盟)とNBAとのさまざまな違いがあります。
例えばバックスのスター選手であるヤニス・アンテトクンポは、
「FIBA(国際バスケットボール連盟)のルールのもとでプレイする私は、まるで囚人のようだった」
と語っています。
実際に、ヤニスは2019年のFIBAワールドカップで平均14.8得点でした。
同年にNBAで平均29.5得点を記録し、MVPを獲得した人物とは思えないような成績です。
世界最高峰のリーグを支配したヤニスをここまで苦しめた違いとは、一体何だったのか?
ここが分かれば、ワールドカップの奥深さが見えてくるでしょう。
そこで今回は、「NBAとFIBAの主な違い」をまとめていきます。
FIBAのほうがコートが小さく試合時間も短い
まずは規格の違いです。
バスケットボールの試合を形づくる大枠について、比べていきましょう。
コートサイズ
NBAで支配的なパフォーマンスを見せているアンテトクンポを苦しめたのが、FIBAのコートの狭さです。
NBAのコートは縦28.65m×横15.24mに対し、FIBAでは縦28m×横15m。
わずかな違いでも、ボールを持って相手の守備を見渡したときのプレッシャーは大きく違うでしょう。
コートが狭ければ、それだけ相手の守備の密度も高いのですから。
3ポイントラインの距離
バスケットボールに3ポイントシュートが導入されたのは1967年、当時はNBAに並ぶ一大リーグだったABA(アメリカン・バスケットボール・アソシエイション)が始まりです。
NBAではバスケットから7.4mの距離に3ポイントラインが引いてあり、この外からシュートを決めれば3点です。
実は3ポイントラインの両端からバスケットまでは6.7mほどで、他の場所から打つよりも若干距離が近いんですよね。
FIBAの3ポイントラインはシンプルです。ラインはどの位置でも平等に、バスケットから6.75mの位置に引かれています。
上記は誤りでした。FIBAの3ポイントは6.75mを基準とし、コーナーからは6.6mです
NBA選手にとっては、コーナー(両端)から打つくらいの感覚だとちょうどいいくらいです。
試合時間
バスケットボールの1試合は4つのクオーター(ピリオドとも)から成っていて、2つ終わるとハーフタイムを迎えます。
NBAでは1つのクオーターが12分でトータル48分。
これにタイムアウトが7つ(後述します)と、15分のハーフタイムが加わります。
フリースローも忘れてはなりませんね。
これも時間が止まるので、試合時間と別途加算します。
以上から、延長がなかったとしても、頭から最後までNBAの試合を見ようとすれば2時間30分は必要です。
これが長いのか短いのかについては、議論の余地があるでしょう。
長ければ長いほど観客の負担ですし、選手にとっても怪我のリスクが高まります。
一方で短すぎれば、選手の出場時間が減り、1チームに必要な選手数も少なくなります。
NBAの原資たる選手の人口が減れば、リーグ全体の収益を押し下げる圧力になりうるでしょう。
元に戻します。
FIBAの場合、クオーターあたり10分で、試合時間は計40分。
NBA、FIBAともに第4クオーター終了時点で同点の場合はオーバータイム(延長)で、どちらも同じく5分です。
NBAはFIBAよりも点が取りやすいルール!
ゲームの規格が違うのだから、ルールも違います。
特に大きな違いとして、ここでは5つ紹介。
特に最後は、NBAとFIBAにおいてもっと重要な違いと言えるでしょう。
タイムアウト
タイムアウトは試合を決定づけうる重要な要素です。
疲れた選手が水分補給するためだけの時間ではなく、コーチが作戦を伝えたり、チームを再度団結させたりする時間です。
NBAでは、タイムアウトは1試合につき7回までです。
かつてはフルタイムアウトや20秒タイムアウトという制度がありましたが、現在は75秒固定です。
第4クオーターには最大で4回までしかタイムアウトは要求できません。
また残り3分を切ると、最大で2回までしかタイムアウトが使えません。
FIBAはもう少しシンプルですね。
前半は2回、後半は3回のタイムアウトを要求でき、いずれも60秒です。
第4クオーター残り2分を切ると、最大2回に制限されると覚えましょう。
ちなみにオーバータイムでは、NBAは2回、FIBAは1回のタイムアウトが付与されます。
一度のオーバータイムで決着がつかず、二度、三度と延長を重ねたとしても、タイムアウトの回数は持ち越せません。
またFIBAでは、タイムアウトをコールできるのはコーチのみです。
タイムアウトの回数が残っていないのに、選手が勝手にタイムアウトをコールしてテクニカルファウルがコールされる出来事は、FIBAでは起こらないのでご安心を。
ファウル
バスケットボールにおいてきわめて重要な要素がファウルです。
多くは選手と選手の接触が度を過ぎた場合にコールされますが、これを見極める基準は様々で、選手同士の接触に依らないファウルも多数存在します。
先ほど述べた、「タイムアウト回数が残っていないのにタイムアウトを要求した」というケースが、まさしくそうです。
ここでは、ファウルの仕組みをおさらいしつつ、NBAとFIBAを比べていくことにしましょう。
まず、1人の選手が1試合にファウルできる回数は決まっています。
NBAは6回、FIBAは5回。
これを超えてファウルがコールされた選手は退場となり、その場で交代選手の投入が強制される仕組みです。
ファウルにも種類があって、上記のように選手個人にカウントされるファウルは「パーソナルファウル」と呼ばれます。
併せて、チームにカウントされるファウルとして「チームファウル」も存在します。
この2つはバラバラにカウントされることはありません。
自チームの選手がパーソナルファウルを吹かれたら、同時に自チームのチームファウルもカウントされる仕組みです。
チームファウルはNBA、FIBAともに、各クオーターごとに4つまで認められています。
これを超えると、シュートに絡まないファウルであってもフリースローが2本与えられます。
これを「ボーナス」「ボーナスフリースロー」などと呼ばれますね。
なおチームファウルには、オフェンスファウルは含みません。
この点も、NBAとFIBAの共通点ですね。
細かなファウルの種別についてもみてみましょう。
広く知られたファウルの種類に、テクニカルファウルがあります。
FIBAではテクニカルファウル(プレイヤーを対象とするものに限る)はパーソナルファウルとチームファウルにそれぞれカウントしますが、NBAはしません。
代わりにNBAでは、パーソナルファウルのカウントにかかわらず、テクニカルファウル2つで退場が言い渡されます。
「ちょっと待って、そもそもテクニカルファウルって?」という方のために、以下で簡単にご紹介しましょう。
もし急いでいるなら、次の「フレグラントファウル」まで飛ばしてもらって結構です。
テクニカルファウルは様々なシチュエーションでコールされるファウルで、オフェンス・ディフェンスに関係のない場面でも登場します。
普通のファウルとテクニカルファウルの違いについては、良い覚え方があります。
「ファウルはゲームの仕組みで、テクニカルファウルはペナルティ」と理解しましょう。
確かにファウルは最終的に選手の退場を伴うものですが、必ずしもやってはいけない行為ではなく、ディスアドバンテージ的な意味合いが強いものです。
フリースローが下手くそな選手にわざとファウルをする「ハック」は、少なくともルールブック上はペナルティ行為ではありません。
対してテクニカルファウルは、明確に反則を犯した場合に吹かれます。
過剰なタイムアウト要求のほかにも、選手やコーチが意図的にゲームを遅延させた場合、ダンク後等に過剰にリングを掴み続けた場合、レフリーを侮辱した場合などに、テクニカルファウルが吹かれます。もちろん、暴力を伴う行為も。
これらの行為を戦略的に行うことはありません。
そもそもバスケットボールとして、容認されていないのですから。
これが通常のファウルとの明確な違いです。
なおテクニカルファウルを吹かれると、FIBAの場合は直ちにフリースローが1本与えられ、その後コート中央から再開します。
NBAの場合、フリースローの本数は同じですが、再開位置はコート中央とは限らず、試合が中断した場所からになります。
最後に、フレグラントファウルについても解説しましょう。
NBAでは、通常のファウルの範疇を超えた不必要なコンタクトがあった場合、ボールの有無にかかわらずフレグラントファウルがコールされます。
フレグラントファウルにはフレグラント1とフレグラント2があり、コール時の処理は同じです。
フリースロー2本が与えられ、ボールは中断地点から再開されます。
違うのは、リミット。
フレグラント1は2個コールで退場ですが、フレグラント2は一発退場です。
その双方の判断基準の違いはというと、コンタクトが過剰であったかどうか。
コンタクトの激しさによって、フレグラント1と2は分かれるのです。
これはレフリーの主観によります。
テクニカルファウルとの違いは、すなわち暴力とコンタクトとの違いと言えるでしょう。
フレグラントファウルは不必要で過激なファウルですが、テクニカルファウルはあくまでペナルティです。
乱闘騒ぎなど、バスケットボール以前の暴力を制裁するために用いられるのです。
なお、FIBAにはフレグラントファウルが存在しません。
FIBAではおおむね、アンスポーツマンライクファウルがフレグラント1に該当します。
フレグラント2に対応するファウルは、ディスクオリファイングファウルですね。
どちらであってもNBA同様、フリースロー2本が与えられたのち、ゲームを再開します。
ゴールテンディングとインターフェアレンス
ダンクというプレイがあるとおり、プロの選手の多くはバスケットよりも高い位置に手が届きます。
だからこそ、シュート後のボールに対し、バスケットの高さを超えて触れるような行為は禁止されています。
これが、ゴールテンディングまたはインターフェアレンスと呼ばれるルールです。
名称が異なるのは、コールされたのがディフェンス側か、オフェンス側かで変わるためです。
ゴールテンディングはディフェンス側、インターフェアレンスは攻撃側と使い分けられています。
インターフェアレンスの正式名称は「オフェンシブ・バスケット・インターフェアレンス」であると知っておくと、覚えやすいですね。
一方で、バスケットボールにはリバウンドという要素もあります。
攻撃側も守備側も、いち早くミスショットを確保して次のプレイに移りたいわけです。
ゴールテンディングまたはインターフェアレンスにならない範囲で、かつ最速でボールに触ることが、リバウンダーの技術と言えます。
では、その「ゴールテンディングまたはインターフェアレンスにならない範囲で、かつ最速」のタイミングとは、具体的にいつなのでしょう。
NBAにもFIBAにも共通している基準は、バスケットに向かって落下を始めた時点で、そのボールの進行を妨害してはならないというものです。
例えば、相手のターンオーバーから単独で速攻を仕掛け、レイアップを打ったとしましょう。
慌てて走ってきた選手がなんとか追いつき、追い越すようにしてバスケットより上の位置でボールを弾いたとします。
これがゴールテンディングに当たるかどうかは、ボールの位置で決まるということですね、
レイアップ直後で、まだシュートが上昇軌道中ならリーガル(ゴールテンディングでない)。
もし、すでにボードに当たっていたり、バスケットに向かって落下中であればイリーガル(ゴールテンディング)です。
NBAとFIBAで異なる点は、リングにボールが接触したあとになります。
FIBAの場合、一度リングに当たったボールはすべての選手が接触しても構いません。
しかしNBAの場合は、リングに接触したとしても、シリンダー内にあるボールには触ってはいけないことになっています。
このシリンダーというのは、あくまで見立ての概念のこと。
バスケットボールの円を一本の丸い筒と見立てて、バスケットより上かつ、このシリンダーの内のボールは触ってはいけないという考え方です。
この違いで最も影響を受けるのは、NBA選手です。
シリンダーの概念がないFIBAのルール化でも、NBA選手がついついシリンダー外にボールが出るまで触らないようにするシーンが見受けられますね。
FIBAに適応できなければ、リバウンド争いに勝てません。
参考までに、アメリカ代表でNBA選手のドレイモンド・グリーンの“疑惑のシーン”を共有します。
グリーンがボールを叩いた瞬間、会場がざわつき、実況も「これはどうなんですか?」と投げかけていますが、笛は鳴っていません。
ボールはバスケットに接触しましたが、確かにシリンダーは出ていないように見えます。
とはいえこれはFIBAですから、リーガル。
このシーンは、グリーンが見事にFIBAのルールに順応しているあかしです。
これを見て「あ!」と思った会場のファンは、きっとアメリカのバスケットボールに慣れ親しんでいるのでしょうね。
攻撃時間
リバウンドに関連した違いとして、ショットクロックがありますので、簡単に紹介します。
バスケットボールでは、オフェンス側の攻撃時間が定められています。これをショットクロックと言います。
両方のバスケットゴールの上に電子タイマーがつけられており、これがショットクロックのタイマーです。
NBAもFIBAもともに、ショットクロックは24秒です。
これまでにシュートを打てなければ、ショットクロックがブザーを鳴らし、攻守交代です。
NBAとFIBAで異なるのは、オフェンスリバウンド後のショットクロック。
NBAでは一度でもボールがバスケットに接触すれば24秒がリセットされますが、FIBAでは14秒です。
ディフェンス3秒ルール
おそらく、このルールの有無こそが、NBAとFIBAを根本的に別のものとしている最大の要因でしょう。
ディフェンス3秒ルールは、積極的な守備状態ではない(アクティブではない)ディフェンダーが、ペイントエリア(フリースローレーンの内側)の中に3秒以上止まってはならないという規則です。
これはNBAの独自ルールで、FIBAにはありません。
そもそもNBAがこのルールを設けたのは、ゾーンディフェンスに制限をかけるためです。
ゾーンディフェンスとは、選手1人が相手1人を守るマンツーマンディフェンスとは異なり、陣形を組んで守る仕組みです。
ゾーンディフェンスでは、相手のボール保持者へのディフェンダーを起点とし、一定の陣形(ゾーン)を維持しようとします。
ゾーンには様々な種類がありますが、どの陣形であっても、基本的にはセンターのようなビッグマンはペイントエリアに滞在し、バスケットに向かって走り込んでくる選手をケアします。
いわばゾーンディフェンスは、陣形を組んでスペースを潰す守備だと言えるでしょう。
なぜNBAがゾーンディフェンスに消極的かといえば、「見ていて面白くないから」です。
NBAはプロスポーツですが、同時にエンターテイメントでもあります。
積極的に攻撃が発生しなければいけませんし、ジャンプシュートばかりでもいけません。
ゴールに向かって走り込んでいき、豪快なダンクをきめるというのは、まさしくエンターテイメントな要素です。
しかし、ゾーンディフェンスが普及してしまうと、ゴール下へのアタックは難しくなります。
ゾーンを攻略するために、どんどん長距離のシュートが増えるでしょう。
これだと、競技性はあるかもしれませんが、見ていて楽しくはありませんね。
そこで設けられたのが、ディフェンス3秒ルールなのです。
ゾーンディフェンスをやろうと思えばできるけど、ずっとビッグマンをゴール下に配すのはイリーガルというのが、NBAなりの落とし所なのです。
はっきり言って、ゾーンディフェンスは守備の王道です。
FIBAワールドカップの試合を見ると、必ずと言っていいほどゾーンディフェンスが登場します。
ゾーンに慣れていないNBA選手では、対応に苦慮することは間違いありません。
逆にいえば、これさえクリアできれば、NBA選手がパフォーマンスを発揮できるともいえます。
過去のアメリカ代表の優勝チームを見ると、ピック&ロールゲームを捨てて、アウトサイドシュートを意図的に増やすことで対応し成功したケースもありましたね。
実際にユーロリーグでプレイしたことのあるNBAのスター選手、ルカ・ドンチッチ選手は、次のように発言しています。
※ユーロリーグのルールはおおむねFIBA準拠
「ユーロリーグのバスケットボールはNBAよりも組織的で、戦略的で、試合時間も少ない。(中略)ルールの違いやスペースの多さ、試合時間を考えると、NBAのほうが点を取りやすと思う」
おまけ・ボールサイズ
NBAとFIBAのボールサイズは同じで、一周29.5インチ(74.9cm)となっています。
日本では7号級と呼ばれるサイズですが、これは日本独自の規格です。
29.5インチと覚えておけば問題ありません。
じゃあ何が違うのっていう話なんですが、実はFIBAのボールは以前から、NBAより小さいと指摘されることがありました。
例えば、NBAのスター選手でアメリカ代表としても活躍したレブロン・ジェイムスは、ボールのサイズはNBAのほうがやや大きく、グリップしにくいと話しました。
また同じくNBAのスター選手で、オリンピックやFIBAワールドカップで活躍したアルゼンチン代表のマヌ・ジノビリは、FIBAのボールはNBAよりも軽いうえよく跳ねるので、シュートやパスの際にコントロールが難しいと語りました。
まとめ/FIBAならではの競技性も楽しい!
以上、NBAとFIBAの違いを紹介しました。
読んでいて、どちらのほうが楽しそうだと感じたでしょうか?
わかりませんよね。
そうなんです。こればっかりは、実際に試合を見てなければわからないと思います。
オフェンス偏重ぎみのNBAには、NBAならではのエンターテイメント性がある。
国際基準として公平性を重視するFIBAには、FIBAならではの競技性がある。
どちらにも良さがあるのだから、ぜひどちらも見てほしいと思います。
ワールドカップ、楽しみですね!