本記事は2024年2月に初掲載したものです。2024年11月、河村選手やGリーグの最新動向を踏まえて加筆・修正いたしました。
NBAと切っても切り離せない存在。
それがGリーグです。
現在グリズリーズとツーウェイ契約を結ぶ河村選手がプレイする場所でもあることから、初めて名前を聞いたという方もいるのではないでしょうか。
かつては富樫勇樹選手や渡邊雄太選手、馬場雄大選手も所属していたリーグです。
Gリーグの発足は2017年。前身はNBA Development Leagueであり、当時は「Dリーグ」の名称で知られていました。
名称は変わっても、存在意義やNBAとの関係性は同じ。
いずれもNBAの下部リーグとして、重要な役割を果たしてきました。
本記事では、そんなGリーグの概要をおさらいしていきます。
そもそもGリーグって何?
Gリーグの大まかな概要として、名前の由来やリーグの役割、歴史、傘下チームについて見ていきます。
名称の由来
NBAの公式下部リーグであるGリーグの正式名称は「NBA G League」。
名称にある「G」はゲータレード(Gatorade)のGです。
ゲータレードは特にアメリカでトップシェアを誇るスポーツ飲料で、NBAの試合中にもたくさん見かける機会がありますね。
日本でも大正製薬に始まり、最後はサントリーが国内販売を手がけましたが、2015年に国内販売は終了しています。
そのため、現在中学生以上の方は、そもそも日本でゲータレードを見たことがないのが当たり前だと思います。
おっさんは悲しい…。
そんなゲータレードの名前がどうしてリーグの名称になっているかといえば、言わずもがな、スポンサーだからですね。
ちなみにGリーグのプレジデントは、2001年以降、元NBA選手のシャリーフ・アブドゥル=ラヒームが務めているんですよ。
リーグには12年も在籍し、オールスターにも選出された名選手でした!
Gリーグの役割は?
Gリーグは、選手・コーチ・オフィシャル(審判等)・トレーナー・フロントオフィススタッフが、世界最高峰のリーグであるNBAで仕事を果たせるだけの準備が整ったかどうかを見定める場所であり、同時にその準備を手助けするための場所でもあります。
例えば審判に限れば、NBAへの道の過程では必ずGリーグでの笛を吹くことになるのです。
当然、選手のための場所でもあります。
リーグに所属する選手はNBAチームからの招集を受ける権利があります。
Gリーグの選手はたとえどのチームにいたとしても、NBAのすべてのチームと契約を結ぶことができます。
※詳しくは後述しますが、Gリーグの選手はリーグと契約をしていて、チーム個別との直接契約はできないことになっているのです
もちろん、NBAのチームからGリーグに選手を送ることもあります。
その場合にはNBAチームが提携するGリーグチームにのみ送ることが可能で、選手の技術やプロのメンタリティなどの育成を目指します。
Gリーグによると、2023-2024シーズンのNBA の開幕ロスターのうち、約半数の選手は何らかの形でGリーグでのプレイ経験がある選手でした。
それだけNBAとGリーグは密接なのです。
※本記事の初掲載は2024年3月です。以下で解説する「イグナイト」は2023-2024シーズンをもって解散されました。とはいえ、重要な意義を担ったチームですので、経緯を知りたい方にはぜひお読みいただきたいです!
また最近、Gリーグは将来NBAでのドラフト指名を目指すトッププロスペクトを集めたチーム「G League Ignite(Gリーグ・イグナイト)」と呼ばれるチームも設立。
NBA Gリーグ・チャンピオンシップでの優勝を目指しながら、バスケットの技術はもちろん、金融リテラシーや地域奉仕などに関する教育も施します。
実際、イグナイトからNBAでドラフト指名された選手には以下のような選手がいます。
•ジェイレン・グリーン(2021年、1巡目1位・全体1位)
•ジョナサン・クミンガ(2021年、1巡目7位・全体7位)
•アイザイア・トッド(2021年、2巡目1位・全体31位)
•ダイソン・ダニエルズ(2022年、1巡目8位・全体8位)
•マージョン・ボーチャンプ(2022年、1巡目24位・全体24位)
•ジェイデン・ハーディー(2022年、2巡目7位・全体37位)
イグナイトは要するに、「NBAドラフトでの指名を目指したいけど大学にはいきたくない・いけない」という選手の受け皿なんですね。
というのも、高校生の頃からバスケットで活躍し、大学からスカラーシップ(奨学金)のオファーを受けて、進学してNCAAトーナメントで活躍し、NBAドラフトへ…この流れでNBAに行けるのって、本当に一握りの、スーパー超絶反則級エリートなんですよ!
だからこそ、強豪大学から声がかかるように、バスケが強いプレップスクール(日本でいう予備校)に通うという選択肢が出てくるわけですね。
NBAドラフトで指名されるには、強い大学を出るのが一番だからです。
ただし!
しつこいですけど、これは非常に狭い門です。
また、金銭面の問題もあります。
いつ声がかかるかも分からないまま、ただお金を払ってプレップスクールに通い続けることは、多くのプレイヤーにとって簡単ではありません。
だからこそ、イグナイトなんです。
NBAほどでないですが、イグナイトに所属すれば契約金をもらえますし、プロとして試合に出る以上、より実践的なスキルが身に付けられます。
しかも金融リテラシーなどの知識まで教育してもらえるというのですから、文句なしというわけです。
そうして19歳になったとき、満を辞してNBAドラフトにエントリーするわけですね。
ちなみに、世界にはイグナイトと同じニーズをキャッチアップしているリーグがあります。
それがオーストラリアのNBLですね。
詳しくはこちらの記事をどうぞ!
※追記(2024年11月18日):イグナイトが解散された理由も、上記のような、金銭的な問題をおおむね解決しうる構造ができたからです。
Gリーグは解散理由について、「NCAA(全米体育協会)のポリシーの改訂等により、NCAAに加盟する選手が広告等により収益を得ることが可能になったため」としています。NBAを目指しながらお金を稼げるという構造が、一定程度可能になったことが解散の動機というわけです。
発足の歴史は?
「育成」を目的としたリーグとしての沿革は、実はなかなかに深いです。
そもそもの始まりは、NBAよりも僅かに発足が早かったプロバスケットボールリーグ「CBA」まで遡ります。
NBAよりも半年早く、1946年4月に発足したCBAは、80年台初期にNBAと提携を結びます。
何を隠そう、今日もNBAにある10日間契約というシステムは、CBAの選手とNBAが契約する際のフォーマットとして開発されたものなんですね。
つまりCBAは、NBAの育成リーグとしての役割を担いつつあったわけです。
実際、2000年にはNBAはCBAの買収も検討しましたが、失敗しています。
NBAとCBAの関係はいつも良好だったわけでなく、時に競合相手でもあったわけです。
そんなこんなで2001年、NBAは正式に、自ら下部リーグを発足させました。
「NBDL(National Basketball Development League)」ですね。
当初は8チームで始まったものの、2006年にはCBAから4チームが合流するなど、広がりを見せていきます。
NBDL出身のNBA選手の有名どころを上げますと、クリス・アンダーセンがいますね。
彼はNBDL傘下のフェーエットビル・ピストンズで2001年に2試合プレイしたのちデンバー・ナゲッツにコールアップ(招集)され、NBAでのキャリアを歩み始めます。
正真正銘、NBDLからNBAへと登っていった初めての選手でした。
高いジャンプ力と派手な見た目から「バードマン」の愛称で呼ばれたアンダーセンは2013年にNBA優勝を果たしています。
2005年になると、NBDLは「NBA D League(NBA Development League)」と改称します。
続々とチームを増やしながら2017年まで活動したのち、2017-2018シーズンからはゲータレードとの複数年のタイトル契約を締結して「Gリーグ」と改称されたのです。
現在でも、GリーグからNBAへと「昇格」する際には10日間契約から始まるのが常ですね。
また、ツーウェイ契約の活用も進んでいます。
河村選手が良い例ですね!
NBAと、NBA下部リーグ「Gリーグ」との双方で契約を結ぶこと。チームは最大3名まで育成選手とツーウェイ契約を結ぶことが可能で、これにより育成選手を他球団に奪われないよう防衛する。
ツーウェイ契約は最大で2シーズンまで。契約終了後に選手は制限付きFAとなり、チームは通常契約を結ぶこともできる。
ツーウェイ契約下の選手が出場可能なNBAの試合数は最大50試合まで。プレーオフには出場できない。
傘下チームはどれくらい?
Gリーグに参戦しているチームは2022-2023シーズン時点で、以下の31チームあります。
※更新しました!下記の内容は2024-2025シーズン時点のものです
•オースティン・スパーズ
•バーミンガム・スクアドロン
•デラウェア・ブルーコースツ
•キャピタルシティー・ゴーゴー
•メキシコシティー・キャプテンズ(カピネタス)
•クリーブランド・チャージ
•カレッジパーク・スカイホークス
•モーターシティー・クルーズ
•インディアナ・マッドアンツ
•Gリーグ・イグナイト
•グランドラピッド・ゴールド
•グリーンズボロ・スウォーム
•アイオワ・ウルブズ
•ロングアイランド・ネッツ
•メイン・セルティックス
•メンフィス・ハッスル
•オンタリオ・クリッパーズ
•サンディエゴ・クリッパーズ【2024年にオンタリオ・クリッパーズから改称】
•オクラホマシティ・ブルー
•オセオラ・マジック
•ラプターズ905
•リオグランデバレー・バイパーズ
•リップシティ・リミックス
•ソルトレイクシティ・スターズ
•サンタクルーズ・ウォーリアーズ
•スーフォールズ・スカイフォース
•サウスベイ・レイカーズ
•ストックトン・キングス
•テキサス・レジェンズ
•ヴァレー・サンズ【2024年加入】
•ウェストチェスター・ニックス
•ウィンディシティー・ブルズ
•ウィスコンシン・ハード
Gリーグで戦った日本人たち
過去、Gリーグで戦った誇らしい日本人選手たちを見ていきましょう!
田臥勇太
2004年にサンズと契約し、日本人初のNBA選手となった田臥選手。
その前年である2003-2004シーズンには、当時ABA(アメリカン・バスケットボール・リーグ)所属だったロングビーチ・ジャム(現モーターシティー・クルーズ、ベイカーズ・フィールドジャムのさらに前の名称)で1年過ごしていました。
ジャムでは18試合に出場し平均5.3得点、2.4リバウンド、6.3アシスト(チームハイ)を記録し、翌年にサンズのキャンプによばれるわけですね。
なお田臥選手はサンズ・クリッパーズとNBAを渡り歩いたのち、Dリーグに戻って2007-2008シーズンまでプレイしました。
富樫勇樹選手
富樫選手は2014-2015シーズンにテキサス・レジェンズと契約し、プレイした選手です。
それまでbjリーグで活躍していた富樫選手は、サマーリーグを経てマーベリックスと契約ののち、マブス傘下のレジェンズに送られました。
サマーリーグの頃からしばしば注目された富樫選手ですが、レジェンズ在籍時に足首を負傷。回復状況も芳しくなく、イタリアでのプレシーズンを経験したのちに千葉ジェッツと契約しました。
渡邊雄太
現在サンズに所属する現役NBA選手の渡邊選手は、サマーリーグののち2018年にグリズリーズとツーウェイ契約を結びました。
Gリーグでの所属チームはメンフィス・ハッスルです。
また2020-2021シーズンんはラプターズと10日間契約を締結ののち、ツーウェイ契約。
ラプターズ905で経験を積みながら、NBAでの実戦経験も増えていきましたね。
その後の活躍は言うまでもありません!
NBAチームと、提携するGリーグチームの双方に所属する契約のこと。NBAチームは育成選手を他チームに奪われる心配なく、将来性を見極められる。
馬場雄大
アルバルク東京で優勝を果たしたのち、2019年にNBA挑戦を発表した馬場選手。
2019-2020シーズンにはテキサス・レジェンズと契約し、41もの試合に出場しました。
2020年にはNBLのメルボルン・ユナイテッドと契約し、ここでも優勝を経験。
2021年にレジェンズに復帰したのち、ユナイテッド再加入も経て2023年9月、長崎ヴェルカと契約に至りました。
サマーリーグではウォーリアーズの選手として戦うなど、あと一歩の印象もあった馬場選手は、日の丸を背負って戦ったワールドカップでの活躍も印象深いですよね。
河村勇輝
Bリーグ発の第1号日本人NBA選手ですね!
2024-2025シーズンにグリズリーズからエグジビット10契約を獲得したのち、正式にツーウェイ契約を結びました。
グリズリーズとのツーウェイ契約ですので、Gリーグではグリズリーズ傘下のメンフィス・ハッスルを行き来することになります。
すでにハッスルでの試合もいくつかこなしており、ハイライトも公開されていますのでぜひチェックしてください!
河村選手は、名門・福岡第一高校出身。在学中に全国大会を4度制覇し、Bリーグの特別指定選手として「三遠ネオフェニックス」でもプレイしました。
東海大学進学後はインカレで優勝。特別指定選手として「横浜ビー・コルセアーズ」でもプレイし、2022年には同チームに正式加入します(東海大学は中退)。
その後の活躍はみなさんご承知の通りですね。
プロ1年目にBリーグでMVPを獲得し、新人賞はもちろん、アシスト王、MIPなどを総なめし、圧倒的な存在感を示しました。
日本の新たな誇りは、いままさにNBAとGリーグで戦っているのです!
Gリーグのレベル&サラリーはどれくらい?
ここまでGリーグの概要について見てきました。
ここで気になるのは、やっぱりリーグのレベルですよね。
Gリーグは実際、どれだけNBAと近いんだって話ですよ。</b
準備ばっかさせて、全然NBAに招集されないとか、NBAドラフトで指名を受けられるのはイグナイトの選手だけとか、そんなんじゃ肩透かしじゃないですか。
Gリーグのレベルは、Gリーグやその前身のDリーグ出身の選手を見ていけば自ずと見えてきます。
「あの選手もGリーグ出身なの!?」と驚くかもしれませんよ!
Gリーグ出身の現役NBA選手
パスカル・シアカム
インディアナ・ペイサーズに移籍したばかりのシアカムは、ラプターズの生え抜きとして、かつてカイル・ラウリーやカワイ・レナードらとともにチームを支え、優勝に導いた立役者の一人です。
シアカムは2016年に1巡目27位でラプターズに指名されたシーズンに、育成の意味でGリーグ(当時はDリーグ)のラプターズ905とラプターズを行き来していました。
Gリーグファイナルにおけるバイパーズとの試合では平均23得点、9リバウンドの活躍を見せ、優勝に貢献。
ファイナルMVPにも輝いたのです。
ルディー・ゴーベア
オールスター3回、最優秀守備選手賞3回、リバウンド王1回、ブロック王1回…。
今や名実ともにスタービッグマンのゴーベアも、Gリーグでの経験があります。
2016年、ナゲッツに1巡目27位で指名されたのちジャズにトレードされたゴーベアは、同シーズンにGリーグ(当時Dリーグ)傘下のベイカーズフィールド・ジャム(現モーターシティー・クルーズ)と契約し、8試合にスターターで出場しました。
現NBA選手の半分はGリーグ経験者!
シアカムとゴーベアからもわかるように、Gリーグには将来NBAのスター選手となれるほどの逸材がひしめき合うリーグです。
実際、2023-2024シーズンが開幕した時点で、シーズン開幕ロスターの選手の半数がGリーグでプレイしたことがあるという記録があります。
いままさにNBAで戦う選手の2人に1人はGリーグでプレイしたことがあると考えると、これはすごいことじゃないですか!?
Gリーグの年俸は?
Gリーグの年俸については、選手協会の取り組みもあって増加傾向です。
Gリーグの場合、選手はチームではなくリーグと1年契約を結びます。
NBAのような最低保証額やマックス契約などは存在せず、年俸は4万500ドル(約600万円)です。
※ドル円148円で換算(2024年1月31日時点)
渡邊選手がハッスルに所属していた2018年までは、3万5000ドルでした。
またNBAの内部に詳しいシャムズ氏によれば、2020年のGリーグのサラリーは3万7000ドルだったわけですから、順調に伸びてきていると考えられますね。
Sources: For the first time, NBA G League salaries will now be over $40,000 per player ($40,500), up from $37,000. Since forming a union in 2020, G League salaries have increased by over $5,000.
— Shams Charania (@ShamsCharania) November 2, 2022
なおツーウェイ契約などでNBAの試合に出場したGリーグ選手のサラリーは、基本的に日割りです。
ちなみに…もちろんGリーグにも例外はあります。
ドラフト指名確実の、いわゆるトッププロスペクトには4万ドルだの5万ドルだの、そんなちっぽけな話はしません。
そう。
上に書いた、イグナイトと契約するような選手については契約の種別が例外的なのです。
実際、イグナイト時代のジェイレン・グリーンは50万ドル(約7400万円)相当を受け取ったという報道もあります。
NBAを目指す若者のトッププロスペクト市場は競争が激化していますから、そこは NBAも出し惜しみしませんね。
※執筆時点の情報です。イグナイトは現在は解散されたチームです※
Bリーグとはどっちがレベルが高い?
さて、ここまでかつての所属選手やサラリーの面から Gリーグのレベルを見てきました。
気になるのは、Bリーグとのレベル差ですよね。
まず選手のレベルですが…これは圧倒的にGリーグと言わざるを得ないでしょう。
下部リーグとはいえ、GリーグはやはりNBA直轄の育成リーグです。
将来NBA選手になる見込みがある選手だけがそこにいて、その中でもさらにNBAとの距離感で差がある世界です。
これまで田臥選手や富樫選手、馬場選手、渡邊選手といった日本を誇るバスケ選手がGリーグでプレイしましたが、NBAのコートに立ったことがあるのは田臥選手と渡邊選手の2人だけ。
さらにNBAで5試合以上プレイしたことのある選手は渡邊選手のみ。
これが現実です。
※初掲載時(2024年2月)の時点の情報です。現在はここに河村選手が加わりました!
もちろん、これを悲観すしたいわけではありません。
むしろ彼らは、よくぞそんなレベルの高いリーグで戦ったのだと言えるのではないでしょうか。
だって、
シアカムとかゴーベアがいたようなリーグですよ…?
お金の面からも見ていきます。
Bリーグは選手個別の年俸を公開していませんが、最低保証額は明記していて、B1なら300万円、B2なら240万円です。
対してGリーグは最低4万ドル・600万円ですから、雲泥の差ですね。
市場規模においても、GリーグはBリーグを圧倒していると言わざるを得ないでしょう。